dcpam 開発構想


   背景

地球の気候を再現する GCM (General Circulation Model = 大気大循環モデル) は, 温暖化問題をはじめとする気候変動予測にも使われるようになってきてい る. 地球大気の GCM から枝別れして開発が進められている火星と金星の GCM も, それぞれの惑星固有の現象をかなり再現できるようになってきた. GCM が 成功をおさめている理由は惑星固有の経験則やノウハウを存分に活用している ことにある. それぞれのGCM は各惑星向けに徹底的にチューニングされ, 複雑 化し, 特化したものになっており, 逆接的ではあるが, 「計算結果を理解する」 という観点からは以下に挙げるような弊害が生じている.

まず, それぞれの惑星に特化した GCM を用いたのでは, 惑星大気の構造を比 較惑星科学的な視点で理解することが難しい, ということが挙げられる. 火星 や金星の大気構造と地球の大気構造との違いがどのような原因によって生じて いるのかを理解するためには, 太陽定数などの外的条件・物質組成・表面状態 などを変更し, 構造の差異の発生を追求検討していくのが数値実験を用いた方 法として考えられる. しかし, 個別的経験則がモデル内部にいわばハードコー ドされている現在の GCM においては, そのような変更が非常に難しくなって いる. パラメタを連続的に変化させて, 互いの結果に対応をつけて議論するこ とが容易には実行できないのである.

また, 現在の複雑な GCM は大気循環の力学的理解を得るための道具としては 使いにくい, ということが挙げられる. 大気構造や注目する現象のメカニズム を考察するためには, 系を順次簡略化して問題のエッセンスを抽出していくこ とが必須である. しかし個別的経験則を満載した GCM はソフトウェア的に複 雑なので, 空間次元を低減させたモデルや特定のプロセスを簡素化したいわゆ る縮小システムを作るのにかなりの労力を要する. GCM の個別化複雑化は計算 結果を観測事実に近づけたのではあるが, 力学的理解からは遠ざけてしまった.

さらに, 現在の大規模シミュレーション装置として進化した GCM は, 大気循 環に関する知識を後世に伝承するという教育目的には使いにくい, ということ があげられる. 一昔前の学生が方程式の式変形を追体験することにより物理的 知識概念を習得したように, 数値計算が当り前になった今日では, 数値計算に よる体験を通しての基礎概念の習熟が必要であり, GCM の後継開発者を養成す るためには必須でもある. 学習者が手元の計算機で GCM を手軽に走らせるこ とができれば, 大気大循環に関する知見を直観的に体験できることになる. し かるに現状の GCM はスーパーコンピュータ環境でないと計算実行不可能であ る場合が多い. 加えてコード解説等のドキュメント類の整備が不十分であるた め, 誰もが気楽に計算を楽しめるようにはなっていないし, まして, 後継開発 者の初期教育に供するにも難しくなってしまっている. 大気大循環の知識伝承 のためには, どこでも簡単に実行可能なまさに教科書のように使われるべき GCM が必要である.

    目標

以上の問題点を踏まえ, 本プロジェクトでは, 理解のための道具であり, かつ, 教科書として使える GCM の設計と開発を目指す. 開発する GCM の特徴は以下のとおりである.

  • 多彩なパラメタと物理過程を与えた計算が自在に行える.
    拡張性に富む階層化されたプログラム構造を持たせることによりモデルの 自在な変更を可能にする. そのためには可読性の高いプログラムコードで あることが必須となる. これにより, 地球・火星・金星の大気循環の相違 点および類似点を切り出すような実験と, 大気循環の力学的理解のために 必要な縮小システムの生成が容易に実行可能となるだろう.

  • お手軽に学習ができる.
    詳細なドキュメントを作成すること, 移植性を高めることにより, GCM を 知識伝承のための教科書として使えるようにする. ドキュメントにはイン ストールを容易に行えるようにするためのインストールガイドおよび GCM をひもとき各物理過程の学習を可能とするためのコード解説が含まれる. プログラムには Windows パソコンでの実行を保証するような移植性を持 たせ, 文字通り「誰でも実行し学習することができる」モデルにする予定 である.



地球流体電脳倶楽部スタッフ dcstaff@gfd-dennou.org
2001/10/19 更新 (by 小高正嗣)